『〈根の回復〉として用意された〈12の環境〉 日本オランダ現代美術交流展』について




 この交流展は、ヘット・アポロハウスとICAEE国際現代美術交流展実行委員会の共同企画による試みです、ヘット・アポロハウスは1980年から、ICAEEは1991年から、共にテクノロジー・アート、サウンド・インスタレーション、パフォーマンスなどの先駆的で実験的な分野を主たる領域として、海外の組織との共同企画による交流展や公演を数多く手掛けてきました。今回の交流展は、そうした二つの組織の従来の活動が結びついたものであり、「芸術は私たちの知覚・感覚に働きかけるものでなくてはならない」という、芸術の自律性に対する共通の意志に基づいています。

 企画段階では、双方のディレクター、パウル・パンハウゼンと酒井信一が、アイデアの交換を出発点として企画趣旨に沿った会場と会期の設定をし、更に参加アーティストの選出を経て、1995年にオランダで、次いで、1996年に日本で展覧会を開催することを決定しました。アーティスト自身は、文化・歴史の異なる二つの国での二度の三週間の滞在期間の間、インスタレーションの制作やパフォーマンス公演をおこない、シンポジウムへの参加などをも通じて、現代芸術の可能性を広げる様々な試みをしました。

 日本展に先駆けてのオランダ展『NowHere』は、ポストモダン社会における芸術の不在性と新たな可能性をテーマとして、オランダ、アイントホーベン市にある旧織物工場を会場として開催されました。「いまこの場から芸術が生まれる」といった現代芸術の刺戟に満ちた場の構築を実現したこの展覧会は、「芸術の現在」を鋭く問うものとして各方面から高い評価を受けました。半年を経ての日本展『TWELVE ENVIRONMENTS/根の回復として用意された12の環境』は、港区政50周年記念事業の一環として港区旧赤坂小学校で開催され、「知覚する身体とは何か」という共通のテーマの下に、両国の参加アーティストが、人とテクノロジーの様々な関係を問い直すものでした。児童たちの歓喜が消えて久しい学舎で、ある者は幾本もの玄を教室に張り巡らせ、そのインスタレーションを場としたパフォーマンスによって、視覚と聴覚の共存空間を創り出しました。また、動植物とアンプを使って生物ラジオを創った者もいれば、様々な動きのオブジェを配して教室を遊戯場に変えた者もいました。こうして校舎全体がテクノロジーを介しての独創的で多彩な12の作品空間=≪環境≫へと変容しました。作品空間がもたらす≪戯れ≫と≪偶然≫に満ちた、共在的で相互浸透的な体験の裡に、多くの観客は、旧校舎に遺る児童たちの生活の断片と各人の記憶を紡ぎ合わせ、やがて、失って久しい好奇心と活き活きとした精神とを蘇らせたはずです。

 この展覧会で私たちが目指したものは、テクノロジーから生命感覚の再発見へと向かう縦糸に、東西の交流という横糸を結ぶことによって、私たちの『根の回復』への一歩を探ることでした。これは、とりもなおさず、芸術とは、作品と観客とのコミュニケーションであり、相互的な精神作用に他ならない、ということの再確認ともなりましたし、そして同時に、芸術への期待と信頼を回復する営為であった、と言うこと もできます。




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