交響曲第6番 イ短調 「悲劇的」
目次 ・・・・・・ 楽器編成 解説 お薦めCD ディスコグラフィ
ピッコロ,フルート4(3,4番はピッコロ持ち替え),オーボエ4(3,4番はイングリッシュ・ホルン持ち替え),イングリッシュ・ホルン,小クラリネット(クラリネット持ち替え),クラリネット3,バス・クラリネット,ファゴット4,コントラファゴット,ホルン8,トランペット6,トロボーン4,テューバ,ティンパニ2,大太鼓,小太鼓,シンバル,トライアングル,タム・タム,グロッケンシュピール,シロフォーン,むち,ハンマー,ヘルデングロッケン(カウベルとも呼ばれ家畜用の鈴),ティーフェス,グロッケンゲロイテ(低音の鈴,鐘に近い),ハープ2,チェレスタ(できれば2台,またはそれ以上),弦5部。
マーラーは、初演の時にこの曲を ≪悲劇的≫ と呼んで紹介した。この曲lでは、マーラー好みの4度や6度の音程の飛躍を多くの主題で用いているが、また目立つのは、第1楽章の第1主題のあとであらわれる管による長3和音から短3和音への進行である。この進行は、いわばモットーととして何回も姿をみせるが、この明るさから暗さへの移行が≪悲劇的≫ という印象を強く裏づけることになる。しかも、その下でティンパニの刻むリズムも特徴的で運命的であり、この曲の根幹をなしている。≪第5交響曲≫での悲嘆、憂愁さは、この≪第6交響曲≫にいたって、英雄の悲劇を象徴化することになったといえる。
この曲は、声楽こそおかないが、相当に大きな編成の管弦楽を必要とし、とくに管楽器と打楽器を重視する。その上、古典派の原則を拡大した形式構成をみせ、その各楽章にかなりの自由さを盛りこんでいるが、それでいて全体はきわめて緊密にまとめあげられている。和声法もこれまでなく大胆である。こうしたことで、これまで以上に一段と幅のある強い表現を狙ったのだった。このために、この曲は、当時の若いオ−ストリアの作曲家たちに、マーラーのこれまでの交響曲以上に強い影響を与えた。
マーラーは、≪第5交響曲≫を完成した翌年の1903年夏にマイエルニヒで次の≪第6交響曲≫の作曲に着手した。そして、この夏の間に2つの楽章を書きあげている。翌年夏もこのマニエルニヒにきて、この≪第6交響曲≫を完成した。大曲でありながら、マーラーとしてはかなり短期間で完成したというべきだろ。マーラーは、この曲をアルマにピアノで弾いてきかせたが、この夫人は、この曲に感動し、とくに終楽章のハンマーが3回ふり下ろされるというところで深い感銘を受けたという。
この曲の初演は、1906年5月27日に、エッセンでの全ドイツ音楽連盟の音楽祭のなかでマーラー自身の指揮でおこなわれた。マーラーは、このために1週間におよぶリハーサルを重ねた。というのも、この曲の指揮がきわめてむずかしいものになっていることがその大きな理由だった。マーラーは、アルマの伝えるところによると、その最後のリハーサルでも初演の時でも、必ずしも立派に指揮したとは思えなかったという。
この曲の楽譜は、1906年にライプツッヒのカーントからはじめて出版された。マーラーは、それまでにも補箪をしていたし、その後もたとえば1908年に改訂している。こうしたことで、版によっては元来の第2楽章スケルツォと第3楽章アンダンテの順序が交替させられることになった。
第1楽章 アレグロ・エネルジコ・マ・ノン・トロッポ イ短調 4分の4拍子。ソナタ形式。主題をさぐりだすような短い序奉ののちに、強烈な和音とともに、行進曲風で暗い第1主題がヴァイオリンでだされる。ここにはもちろん、序奏の動機が用いられている。この主題を確保したのち、主題の動機による経過部となる。はげしい頂点をつくると、トランペットがイ長調の3和音を奏し、それをイ短調の3和音へと移す。これは明から暗への移行を示すもので、力性的にもffからppへディミヌエンドしていて、全曲の一種のモットーとなっている。そして、音高の特徴的な動きをもつよりも響きの変化で曲に意義をもたせるものといえよう。これにつづいて、弦の分散的なピッツィカートの上で、木管が憂愁味のあるコラール風の動きをする。突然、活気を滞びて、第1ヴァイオリンが情熱的で憧憬をおさえきれぬような感じの第2主題を奏しだす。ここでの和声の新鮮さについては、シェーンベルクやウェーベルンも称賛している。これはまもなくチェレスタを加え、さらに力を増して繰り返される。マーラーの愛妻を音楽的に理想化した姿があるといわれている。とくに、小結尾主題といえるめだった旋律もつづかずに、呈示部は終る。この呈示部は、マーラーとしてはめずらしく、反復記号をもっている。
展開部では、チェレスタや各種の打楽器が活用されるが、なかでもカウベル(アルプスあたりで牛の首にぶらさげる大型の鈴)が印象的である。マーラーも、実際に山でこの鈴の音をきいて忘れがたいものになったといわれている。ホルンも、牧歌的な情感をそえる。この展開部は、第1主題の動機の処理に始まる。そしてまもなく、第2主題もこれに加えてゆく。すると、力強く清瀬なヴァイオリンのトレモロにのって、チェレスタが柔和な和音を奏し、鈴と鐘が響きわたる。ホルンは、呈示部のコラール風の旋律を奏する。こうして、超自然的な雰囲気がかもしだされる。そのうえ、明−暗の和音のモットーもきかれる。それから、優雅になり、木管で第2主題がだされ、コラール風の旋律とともに展開されてゆく。そして、項点で第1主題の変形が大きくでて、曲は再現部に入る。経過部の木管のコラール風の旋律は、リズムを縮小して再現する。それから、第2主題が呈示部の時よりもあかるく輝きを帯びて現れる。その後、低声部に行進曲風のリズムがでて結尾となり、トロンボーンが第1主題を暗示し、展開風の様相をみせてすすむ。そして、第2主題がトランペットで拡大されて勝ち誇ったように姿をみせてから、第2主題をおもに扱っていて、強烈なクライマックスをきずきあげて、この楽章は輝かしく終る。
第2楽章 スケルツオ イ短調 8分の3拍子。ドイツ語で「重みをもって」と記されているとおり、通常の軽快でユーモラスなものではなくて、不気味で怪異的で皮肉なところをもっている。そして、第1楽章と材料的に密接に関連している。低音弦とティンパニのきざむリズムの上で、ヴァイオリンが主部をだす。これには、ホルンとヴィオラがからんでいる。そして、いずれも第1楽章の冒頭の動機と関係をもっている。とにかく、この主題がいろいろの楽器で扱われ、力性もたくみにつぎつぎと変化して、効果をあげる。トリオにはいる前に、トランペットで和音の移行のモットーがだされる。トリオは、8分の4拍子と8分の4拍子、それに4分の3拍子を交互にもち、「古風に」と記され、速度を落して、オーボエで優雅な旋律をだす。そして、この旋律を展開風に扱ってゆく。ついで、第1部の自由な再現である第3部がある。それから、トリオを変形してもう1度示す。そのあとに結尾がきて、おもにトリオの動機にもとづきつつ、クライマックスを作りあげてから、ティンパニで印象的に終る。この楽章でも、モットーの和音の移行がしばしばきかれる。
なお、このスケルツォを第3楽章にして演奏することもある。マーラーは、改訂で一度はこのように考えたことがあったものの、またやはり元来の順序のものがよいと思うようになった。
第3楽章 アンダンテ・モデラート 変ホ長調 4分の4拍子。3部形式。きわめて牧歌的な情緒の強い楽章であり、前の楽章とは、展開部の家畜の鈴の音で、気分的に関連をさせている。ヴァイオリンが表情ゆたかな第1主題を奏しだす。これは、≪亡き子をしのぶ歌≫の旋律と関係している。これに管が加わって、モットーの和音の移行を暗示する。たいへんに美しい情緒がただよう。まもなく、ホルンが牧歌的な新しい旋律で加わり、曲は、のどかにすすんでゆく。そして、マーラー独特の美しいメロディを繰りひろげてゆく。中間部は、鈴の音をともない、ハープ、チェレスタも動員し、クラリネットをさざ波のように動かす。そのなかで、トランペットが第1部の動機にもとづく旋律を奏する。短い中間部がしずまると、第3部になり、木管が主題を再現する。ヴァイオリンはこれに対位法でからまっている。そして、自由な形で第1部の主要旋律をほとんどすべて再現したのちに、結尾となり、力を増して大きくクライマックスをつくり、最後に速度を落して、曲は静かに終る。この楽章でも、モットーがさかんに使われている。
第4楽章 フィナーレ。序奏部とソナタ形式のこ主題とからなる。序奏は、アレグロ・モデラート、ハ短諷、2分の2拍子で始まる。強い和音のなかで、チェレスタとハーブが分散和音を奏してから、ヴァイオリンが序奏の≪悲劇的≫とも呼ばれることのある主要旋律をだす。すると、金管がモットーの和音の移行をだす。これにつづいて、次の主部に現れる動機を次々と示し、色彩的になってゆく。モットーが全楽器でffからppへと示されてから、アレグロ・モデラートになり、しだいに高揚して、ついにアレグロ・エネルジコ、イ短調の主部へと入る。
主部では、まず、強烈に木管とヴァイオリンとで第1主題がだされる。この主題を精力的に確保すると、ホルンが大きな飛躍をもった第2主題を劇的に呈示する。この主題をいろいろな楽器で確保してから、小結尾となり、カウベルをはじめ打楽器群も活躍をし、序奏の動機も加えて、多彩な効果をだす。つづく展開部は、2つの主題のほかに、序奏からの材料も用い、対位法とたくみな管弦楽法で圧倒的な効果をあげる。この展開部は、3つの部分からなると考えられ、それぞれ頂点でハンマーが「短く力強く、しかし金属的でなくてこもって響くように」叩かれる。第1の展開部は。おもに序奏の材料と第2主題を扱い、第2の展開部は2つの主題を処理する。第3の展開部は、文字どおり全曲のクライマックスをきずくもので、モットーの和音のところでハンマーを叩かせる。マーラーは、妻のアルマにこのハンマーについて、「英雄は敵から3回攻撃を受け、3回目に木のように倒れてしまう」と語ったとのことである。そして、曲はその後、悲劇的で沈んだような重々しい結尾で結ばれる。そこには死に対する諦観も感じられよう。なお、このハンマーはのちに2回こあらためられ、「国際マーラー協会」版の楽譜でも、3回目のハンマーの部分はない。
お薦めCD Mr.モニャの独断と偏見で選びました。
- クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモーニック管弦楽団 1988年 ライブ録音 EMI (特選)
- ガリー・ベルティーニ/ケルン放送交響楽団 1990年 EMI
- エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団 1986年 DENON
ディスコグラフィ Mr.モニャが、97年11月現在 持っているCDリストです。
| 指 揮 者 | 演 奏 者 | 録音年 | レーベル | 備 考 |
| エリアフ・インバル | フランクフルト放送交響楽団 | 1986年 | DENON | |
| ガリー・ベルティーニ | ケルン放送交響楽団 | 1990年 | EMI | |
| クラウス・テンシュテット | ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 | 1991年 | EMI | ライブ録音 |
| ガリー・ベルティーニ | ケルン放送交響楽団 | 1990年 | EMI | |
| ジョージ・セル | クリーブランド管弦楽団 | 1967年 | CBS | |
| ジョン・バルビローリ | ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 | 1969年 | EMI | |
| ミラン・ホルバート | PHILHARMONICA SLAVONICA | 1981年 | CATUSU | |
| リッカルド・シャイー | ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団 | 1989年 | DECCA | |
| レナード・バーンスタイン | ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団 | 1967年 | CBS | |
| ロリン・マゼール | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1982年 | CBS |
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