交響曲第1番 ニ長調 「巨人」
フルート4(3,4番はピッコロ持ち替え),オーボエ4(3番イングリッシュ・ホルン持ち替え),クラリネット4(3番はバス・クラリネット,4番は小クラリネット持ち替え,第4楽章では小クラリネットを複数で演奏する),ファゴット3(3番はコントラファゴット持ち替え),ホルン7,トランペット7,トロンボーン4,テューバ,ティンパニ2,大太鼓,シンバル,トライアングル,タム・タム,ハープ,弦5部。
この交響曲は、初演からしばらくの間は、「交響詩」とされていて、5楽章でできていた。第1,2,3楽章を第1部として、「若人、美徳、結実、苦悩のことなどの日から、第4,5楽章を第2部として、「人間の喜劇」といった標題をつけられたこともある。その後のハンブルグ(1892年)とワイマール(1894年)の演奏の時には、さらに大体につぎのように詳しく説明し、全曲に「巨人」(Titan)という標題をあたえた。
第1部 青春の日々から。若さ、結実、苦悩のことなど。
第1楽章 果てしなき春。序奏は明け方のはじまりのころの自然のめざめを描く(ハンブルグでは冬の眠りとなっていた)。
第2楽章 花の章(アンダンテ)。
第3楽章 帆に風をはらんで(スケルツォ)。
第2部 人間の喜劇。
第4楽章 座礁。カロの書式(ワイマールにある「狩人の葬式」)による葬送行進曲。
第5楽章 地獄から天国へ(アレグロ・フリオーソ)。
これらの標題は、「巨人」というものも含めて、1896年のベルリンでの演奏のときにすべて除去されてしまったが、ジャン・パウルの「巨人」という小説の内容からとられている。マーラーは、青年時代からこの小説を愛読していた。
この交響曲は、初演のころの5楽章のものと違って、現在では4つの楽章からなるが、それでも古典派の交響曲に比べると、もちろん大きな規模のものである。しかし、後のマーラーの一連の交響曲と比較すると、大規模なものとはいえない。5楽章だったものが4楽章の曲になったというのは、1896年のベルリンでの演奏で元来の第2楽章を省略したのをきっかけとして、1898年に出版する準備のときに完全に削除することに決めてしまったからである。マーラーが何故この2楽章をカットしたのか正確な理由は知られてないようだが、おそらくその大きな理由は、この楽章が1884年に作曲したヨーゼフ・ヴィクトール・フォンシェッフェル作のベストセラーの戯曲「ゼッキンゲンのラッパ手」の上演のための音楽の遺物であって、終楽章の第2主題にもそれが部分的に引用されていることと、このアンダンテの楽章をおいたのでは、曲があまりにも長大になりすぎるということだったのだろう。なお、この削除された第2楽章は、その後紛失されたと思われてきたが、第2次世界大戦後に発見され、1968年出版の楽譜で始めて陽の目をみた。そして、改めて「花の章」の題名で独立して演奏されたり、第2楽章として挿入されたりするようになった。
「第1交響曲」の初演は、1889年11月20日にマーラー自身の指揮でブタペスト・フィルハーモニーの演奏によって行われた。しかし、その結果は、決して好評というべきものではなく、むしろ冷淡に曲は迎えられた。そうしたこともあって、マーラーは、この曲の総譜を1899年まで出版しないでいた。ただし、その間に少なくても3回は演奏された。もっとも、マーラー自身も、この曲は当時の人たちにはなかなか理解されにくいと考えていたらしく、ウィーンでさえも、1900年代に入っても 数回しか指揮をしていない。しかも、その都度 マーラーは、敵意のある批評や嘲笑的な批判にぶつからなければならなかった。しかし、その後この曲は、多くの指揮者からとりあげられるようになった。
楽譜は、1899年にウィーンのワインベルガーから出版された。
第1楽章 ニ長調 4分の4拍子。ソナタ形式。曲は「ゆるやかに、おもおもしく」と指定された序奏で始まる。ここは「自然の音のように」と記されている。オーボエとファゴットが4度降下の特徴的な動機をだし、ついでクラリネットが遠くから聞こえるようなファンファーレを奏する。ニ短調にもとづき、静かな美しさをたたえている。冒頭の4度動機は、カッコーの鳴き声で、たんにこの序奏ばかりでなく、第1楽章をはじめ、全曲の主要な動機や主題を生成し、全体の関連に役立っている。また 低弦で出る4分音符3+3連符1の動機はフィナーレにも登場する重要なものだ。このきわめて標題音楽的な秩序の後、「くつろいで」と記されたソナタ形式の主部が来る。主題は、「さすらう若人の歌」の第2曲<朝の野辺を歩けば>にもとづくもので、他の楽器を加え、対立法的に取り扱われ、変形されてゆく。展開部は、高音弦の音の上で、木管が奏でて、田園的な静けさの中でチェロが保続音に野って、呼びかけるような旋律をだす。しかし、すぐにまた木管がカッコーの鳴き声を残しながら、曲は静寂に戻る。ホルンの柔和な響きが終わると、フルートが小鳥のように愛らしくさえずる。チェロ、ヴァイオリンが呈示部にもとづく旋律をだし、弦の動きのなかで木管が新しい旋律をだし、まもなくヴァイオリンが活発な運動をするようになる。今までの色々な動機を扱いながら、曲は展開部のクライマックスにたかまってゆく。ffの頂点をきずきあげるとこれまでの旋律の対処法的な処理のうちに、もう1度ppからffまでクレッシェンドし、第1主題を再示する。以後だいたい呈示部のとおりにすすみ、最後に、4度動機を高らかに示しながら、曲は強烈な響きで終わる。
第2楽章 イ長調 4分の3拍子。3部形式。「力強く運動して」と指示されている。最初、低音弦による力強く奏で、その上声部でヴァイオリンとヴィオラが、8度飛躍の特徴的な動機を何回もだし、和声を充実させる。マーラーは、ここでオーストリア山岳地方のヨーデルを伴う舞曲の雰囲気を取り入れたといわれている。続いて、管が加わり、初めて旋律的な4度を用いたはっきりした線を示すようになる。次第にクレッシェンドし、その頂点で、木管とヴァイオリンが、つぎの部分、すなわち複合3部形式の第1部のうちの中間部で重要な役をする旋律をだす。こうして中間部で、この旋律(第2ヴァイオリンとヴィオラ)の上に、管が旋律を奏でる。熱狂してゆくと、ヴァイオリンが嬰ハ短調で、対立旋律を伴って、力強く響く。すると、コントラバスとテューバの空虚な5度にのって、異名同音転調を経て、頂点がきずかれ、8分音符に形を変えて姿をみせる。そして、その上で冒頭の第1部が変形再示される。長いトリルにつづく強烈なイ長調の和音、息を抜くような休止、ホルンの消えるような穏やかな響きを経て、曲は、ヘ長調の牧歌的なトリオに入る。トリオは、ワルツ風に柔和で、4度動機をバスの伴奏に使っている。調号がト長調に転じると、第1楽章と関連のある旋律がシューベルト風に弦に。でるフルート、クラリネット、それに弦の間で、さらに新しい旋律が対位法的に示される。これが簡単に扱われ、低音弦に消えると、再びホルンの(ただし今度は8度の)呼び声で、第1部の再現にあたる第3部へと進む。この第3部は、第1部よりも単純化されているが、構成の点ではむしろ充実している。管の長いトリルで頂点をきずいて、速度を増してゆき、力強い和音で曲は終わる。なお、この楽章は、マーラーが1880年から1883年にかけて作曲した「5つの歌曲」(歌曲集「若き日の歌」第1集)の中の第3曲「ハンスとグレーテ」と音楽的に密接に関係している。
第3楽章 ニ短調 4分の4拍子。3部形式。「緩慢なことなく、荘重に威厳をもって」と書かれている。フランスの画家カロの作品からヒントを得た楽章。ティンパニの打ち続ける4度動機にのって、まずコントラバス、ついでチェロ、それからテューバというようにカノン風に、虚無感にみちた古いボヘミアの民謡「兄弟マルティン」(あるいは「兄弟ヤコブ」又フランス民謡「ジャック兄弟」ともいわれている)による旋律が出てくる。まもなく、それに4度を用いたオーボエの旋律が加わる。この2つの旋律がティンパニの動機の上で取り扱われてゆき、ティンパニが息絶えるように消えると、オーボエとトランペットがかなり緩やかで表情豊かに新しい旋律をだす。大太鼓とシンバルが印象的に響く。この旋律が弦でも扱われ、ファゴットに半音階的な句が現れると、ティンパニは4度動機をうち鳴らし始め、前の2つの旋律の動機がファゴットと低音弦に姿をみせる。管が思い出させるように4度をだす。この経過句で曲は、中間部(ト長調)にはいる。ハープと低音弦のピッチカートにのって、ヴァイオリンが弱音器を付けて、柔和な、4度を使った新しいあかるい旋律を示す。これは、「さすらう若人の歌」の4曲目<2つの青い目が>の「道には1本の菩提樹があり・・・」の部分の旋律にもとづき「少年の魔法の角笛」の中のものとも関係があり、夢想による苦悩からの解放の象徴であるという。この旋律が歌曲風に優美に扱われて中間部が終わると、曲は、変ホ短調で第1部の再現に移る。暗い気分が支配し、それに、おどけたような旋律が加わり、ティンパニは4度を鳴らす。半音低いニ短調にはいると、曲は突然速度を増す。しかし静寂に戻ると、速度も前に帰り、穏やかな気分のうちに、4度動機をだしながら、弱くこの楽章は終わって、第4楽章に休みなしにつづいてゆく。
第4楽章 2分の2拍子。ソナタ形式。「嵐のように運動して」と書かれ曲は、自由な変化の多いソナタ形式にしたがうと見ることができ、3つの大きな部分でできているとも考えられる。その第1部はヘ短調に支配され、絶望から激しい反抗で立ち上がるように強烈で情熱的に全楽器で始まる。そして、序に相当する部分がかなり続く。弦の荒々しい叫びからトランペットとトロンボーンが、あとにでる主題の冒頭を力強く吹奏する。これは第1楽章展開部にでた旋律にもとづくものである。ついで、これとは逆の下行的な、半音階風の断片が木管であらわれる。再びヴァイオリンお叫びに続いて以上の2つの断片がでるが、今度は弦が激しい運動でそれに加わっている。そして頂点で、「精力的に」と指定された部分に入る。ここで木管と低音弦に初めて第1主題が旋律的に姿をみせる。これは、ヘ短調で始まり、第1楽章の材料と今の序の断片に基づいている。この精力的な部分は、第1主題の呈示部にあたり、この主題をいろいろな楽器で、さまざまな形で示す。まもなく、「大いに粗暴に」と指定された部分にすすみ、金管の強烈な響きの中で、木管と弦が荒れ狂うような旋律をはげしくだす。それが静まると、序の半音階的な動機が静かに姿をみせ、弦が半音階的にうねりながら上昇して、第1部は終わる。第2部は、弦のだす長い第2主題で始まる。これが終わると、低音弦が3連音符をもつ音型を繰り返す上で、クラリネットが第1楽章の冒頭の4度動機を想い出のように示す。これに序の半音階的な断片がつづいて、曲は、ト短調に入り、速度をふたたび高める。ピッコロとフルートと弦の急速な音型のなかで、半音階的な嵐のように取り扱われてゆく。第2主題も姿をみせる。ハ短調で、突然、木管に前の2つの主題と関係した新しい旋律もでるし、第2主題とかなり関係のある力強い旋律がハ短調で現れる。序の半音階的な断片が金管で強烈明瞭に示されると、序のもう一つの断片がそれに対抗するように勇壮に姿をみせる。これで第2部の圧倒的な頂点がきずきあげられ、曲は、ペサンテのニ長調に入る。しかし、すぐに速度を前に戻して、第3部に達する。第3部は、第1主題の旋律をちょっと回想させるが、すぐにホルンに第1楽章の最初の4度動機『自然の力の動機』を示して、自然の勝利、人間の敗北、それにより人間的な喜劇を描きだす。速度を落としてゆるやかになると、ニ短調に入り、第1楽章の序の構成に似た部分が繰りひろげられる。今度は、第2主題とそれに関係した柔和な表情ゆたかな旋律がチェロとヴァイオリンにでる。これが木管と弦で取り扱われる。序の旋律的断片、ついで第1主題が現れる。しかし、それも「最高度の力」と指定された強烈この上ない結尾に達すると、4度動機に負かされてしまう。若人の意気と力を示すかのように、序の断片をだしたのち、ファゴットと低音弦の第1主題の断片にのって、金管が4度動機を示す。いつしか、この第1主題断片は、トリル風の音形に変わり、第2主題の最初にもとづく音形を金管に吹奏させながら、最後に、曲は、力強く情熱的に、ニ長調で終わりを告げる。
<花の章> アンダンテ・アレグレット ハ短調。8分の6拍子。マーラー自身によって省かれることになった楽章で、1884年の付随音楽「ゼッキンゲンのラッパ手」のなかの、ラッパ手がラインの対岸の城の住人のマルガレータのためにセレナードを吹く場面の音楽を使っているという。ただし、この付随音楽の楽譜は失われてしまった。とにかくこの楽章は簡素なもので、トランペットによる感傷的な主題を自由に2回変奏するという形をとる。
お薦めCD Mr.モニャの独断と偏見で選びました。
- ガリー・ベルティーニ/ケルン放送交響楽団 1991年 サントリーホール・ライブ録音 EMI
- ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団 1961年 CBS
- クラウス・テンシュテット/シカゴ交響楽団 1991年 ライブ録音 EMI
- 小澤 征爾/ボストン交響楽団 「花の章付き」 1977年 「花の章」1984年 DG
情報:「花の章付き」は、小澤の他に メータ/イスラエル・フィル(1986年録音)、ラトル、イヴァン・フィッシャー、などのCDがある。若杉/都響は、ハンブルグ初稿版の日本初演をCD化したもの。
ディスコグラフィ Mr.モニャが、97年3月現在 持っているCDリストです。
| 指 揮 者 | 演 奏 者 | 録音年 | レーベル | 備 考 |
| エドリアン・ボールト | ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 | 1958年 | EVEREST | |
| エフゲニー・スヴェトラーノフ | ロシア国立交響楽団 | 1992年 | harmonia | |
| エリアフ・インバル | フランクフルト放送交響楽団 | 1985年 | DENON | |
| 小澤 征爾 | ボストン交響楽団 | 1977年 | DG | 「花の章付き」 |
| ガリー・ベルティーニ | ケルン放送交響楽団 | 1991年 | EMI | ライブ録音 |
| クラウス・テンシュテット | シカゴ交響楽団 | 1991年 | EMI | ライブ録音 |
| クラウス・テンシュテット | 北ドイツ放送交響楽団 | FIRST | ライブ録音 | |
| ズービン・メータ | イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 | 1974年 | DECCA | |
| ブルーノ・ワルター | コロンビア交響楽団 | 1961年 | CBS | |
| ヤッシャ・ホーレンシュタイン | ロンドン交響楽団 | 1969年 | UNICORN | |
| ヘルベルト・ケーゲル | ドレスデン・フィルハーモニ管弦楽団 | 1973年 | BERLIN Classics | |
| ラファエル・クーベリック | バイエルン放送交響楽団 | 1968年 | DG | |
| リッカルド・ムティー | フィラデルフィア管弦楽団 | 1984年 | EMI | |
| レナード・スラットキン | セントルイス交響楽団 | 1981年 | TELARC | |
| レナード・バーンスタイン | ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団 | 1966年 | CBS | |
| ロリン・マゼール | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1985年 | CBS |
他に、良いCDがありましたら情報を お待ちしております。
e-mail m-mori@catnet.ne.jp