2003.6



2003年6月
◯83/6の手帳から 石橋蓮司さんの第七病棟の「おとことおんなの午后」を観た。どんな芝居だったかなあ。
◯93/6の手帳から 先月に続き、アテネ・フランセで小川プロの未見のドキュメンタリー映画。未見の鈴木清順さんの映画「けんかえれじい」「東京騎士隊」をテレビの録画で。

「何もしない想像上の書店」(2003/6/4)

 書店に行っても面白くない、買いたい本に出会えないと、自分でもよく言う。版元や書店の努力が足りないなどとは、自分でも言うし、よく耳にする。でも書店や版元の苦労もかなり知ってはいるつもり。だから、ここに「勝手連」ふうに、何にも努力しない、推薦するだけの棚を作ってみよう。どうせ売れるだろう本は、その力にまかせてね。本当は書影や説明を入れたり、ネット書店への直リンクをはったりするといいのだろうけれど、ま、想像ですから。とりあえず50+α冊です。

都市的繁栄のイメージを剥がす本
鶴見和子対話まんだら『石牟礼道子の巻−−魂 言葉果つるところ』(藤原書店)
石牟礼道子全詩集『はにかみの国』(石風社)
金石範・金時鐘『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか−−済州島四・三事件の記憶と文学』(平凡社)
浅野健一『日本大使館の犯罪』(講談社文庫)
高橋奈緒子+益岡賢+文珠幹夫『東ティモール』『東ティモール 2』(明石書店)
ノーム・チョムスキー『メディア・コントロール』(集英社新書)
アルンダティ・ロイ『わたしの愛したインド』(築地書館)
宇井純『日本の水はよみがえるか』(NHKライブラリー)
石渡正佳『産廃コネクション』(WAVE出版)
神奈川県高教組環境読本編集委員会『環境読本』(東研出版)
次点(次点で失礼、でも触れておきたく) 松橋隆治『京都議定書と地球の再生』(NHKブックス)

たまには詩をじっくり読んでください
辻征夫『辻征夫詩集成』(書肆山田)
飯島耕一『浦伝い 詩型を旅する』(思潮社)
吉増剛造『The Other Voice』(思潮社)
鈴木志郎康『石の風』(書肆山田)
現代詩文庫『続・清水哲男詩集』(思潮社)
現代詩文庫『福間健二詩集』(思潮社)
江代充『黒球』(書肆山田)
関口涼子『(com)position』(書肆山田)
須永紀子『至上の愛』(ミッドナイトプレス)
小林泰子『ウォーターカラーズ』(ミッドナイトプレス)
次点(爆) 渡辺洋『少年日記』(書肆山田)

国境を超える小説たち
サルマン・ラシュディ『彼女の足元の大地 (The Ground Beneath Her Feet)』(未訳、PICADOR USA)
チャンネ・リー『最後の場所で』(新潮社)
エドウィッジ・ダンティカ(日本語版はダンティカット名義)『息吹、まなざし、記憶』(DHC)
李良枝『由煕 ナビ・タリョン』(講談社文芸文庫)
津島佑子『かがやく水の時代』(新潮社)
カズオ・イシグロ『浮世の画家』(中公文庫)
アラン・ブラウン『オードリー・ヘプバーンズ・ネック』(角川書店)
デイヴィッド・グターソン『殺人容疑(原題「ヒマラヤ杉に降る雪」)』(講談社文庫)
ルース・L・オゼキ『イヤー・オブ・ミート』(アーティストハウス)
キョウコ・モリ『シズコズ ドーター』(青山出版社)
次点(「国境」とはちょっとずれますが、ビート世代の本物の先駆として)ゾラ・ニール・ハーストン『彼らの目は神を見ていた』(新宿書房)

アートもよろしく
ジョナス・メカス『フローズン・フィルム・フレームズ−−静止した映画』(フォトプラネット編集発行・河出書房新社発売)
ダムタイプ編『メモランダム 古橋悌二』(リトル・モア)
ジョン・バウアマスター『ピーター・ビアードの冒険』(河出書房新社)
水戸芸術館現代美術センター監修『ジェニー・ホルツァー−−ことばの森で』(淡交社)
『荒木経惟写真全集 3 陽子』(平凡社)
大島洋『アジェのパリ』(みすず書房)
『フリーダ・カーロ』(タッシェン・ジャパン)
『現代美術 16 ニキ・ド・サン・ファール』(講談社)
井出孫六『ねじ釘の如く 画家・柳瀬正夢の軌跡』(岩波書店)
洲之内徹『気まぐれ美術館』(新潮文庫)
次点(版元解散につき) ジョン・グルーエン『キース・ヘリング』(リブロポート)

未来に届けたい本
『フラナリー・オコナー全短編(全2巻)』(筑摩書房)
『太宰治全集(全10巻)』(ちくま文庫)
中上健次『十九歳の地図』(河出書房新社)
鶴見俊輔『期待と回想(全2巻)』(晶文社)
須賀敦子『コルシア書店の仲間たち』(文藝春秋)
網野善彦『日本社会の歴史(全3巻)』(岩波新書)
ノーマ・フィールド『天皇の逝く国で』(みすず書房)
『松下竜一 その仕事〈22〉狼煙を見よ』(河出書房新社)
『シネアストは語る−−5 小川紳介』(名古屋シネマテーク発行・風琳堂発売)
エドワード・W・サイード『オリエンタリズム(全2巻)』(平凡社ライブラリー)
次点(小学生時代からの思い入れとして) エーリヒ・ケストナー『飛ぶ教室』(岩波書店)


「書評再録−−石牟礼道子全詩集『はにかみの国』」(2003/6/8)

 書評のメルマガに今月発表予定の石牟礼道子全詩集『はにかみの国』(石風社、2002)の感想を以下に再録します(まあ、同メルマガはまだ出てないんですが、ちょっと何かやってないと落ち着かない心境なんで。ルールとしてはOKもらってますし)。

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−−今回は石牟礼道子さんの去年出た詩集ですが、石牟礼さんはお元気なんでしょうか。
−−1927年生まれといいますから、今年で76歳、『苦海浄土』を出して、水俣病の告発の最前線に立ったのが69年ですから、それからでも35年近く。目を悪くされたと聞いていますが、小説や評論など重厚な新刊を読み切れないペースで着実に発表されています。
−−今回は全詩集ということですが。
−−私も、石牟礼さんの経歴については詳しくないんです。60年代の谷川雁さんの「サークル村」運動に森崎和江さんらと参加されていたことくらいで。今回の詩集は50年代から90年代までの作品をまとめたもので、おそらく詩集としては唯一なんじゃないでしょうか。

−−詩としてはどうなんですか。
−−そんな大きな質問には答えられません。もはやこうしたメルマガを読んでいる人々でさえ日本の現代詩をほとんど読まなくなっているというのに、その現代詩の潮流との違いを語っても意味があるのかしら?
−−最近の本を語る人々の世界も、まあ、古書うんちくマニアと現代翻訳思想マニアが主流で、本当に生々しい日本の問題と向き合うなんて煙ったがられるだけですからね。いわゆる詩人たちもほとんど同じ穴のむじなですし。
−−そういう意味では、向き合わないと読めない本だと思いました。3回読んで、やっぱり電車の中でさらっと読もうとしても焦点が合わない本だななんて思いました。

「川の神様はひゅんひゅん鳴いて/ほら今 彼岸の上げ潮に/はいってゆきおらす//宇宙世紀 はじまる/にっぽん ひご みなまた」(「川祭り」より)
「わがまぶたはや/氷河期を超ゆるねむりなり」(「午睡」より)
「不知火(しらぬい)という名の海は/人が自分のなかに封じこめ 押し殺した/大切なものを/ぜんぶ 呑みこんで/今朝も満ちているのだよと/海霊(うなだま)さまの声が 耳元でして」(「尺取り虫」より。かっこ内はルビ--以下同)
「無脳児のみやこの路地にゆき暮れて/わたしは生き埋めの地面に頬すりよせ/祖(おや)の国の名をちいさな声で呼んでみる/にんげんよ にんげんよ と」(「死民たちの春」より)
「ああ/ニッポン テンノヘイカ/テンノヘイカシャマ ウチは あ/空が 全部(ちえんぷ) ウチは/空が 全部/いちどに 落っちゃけてくる/くるから/朝鮮原爆(げんぱく)のおとめのなまえの/融けたおせんべい」(「はにかみの国−−死にゆく朝の詩」より)

−−石牟礼さんというと、九州の水俣、そして天草に根差した、土地に根付いた生をアニミズム的にとらえて、表現するという見方がなされると思いますが。
−−それははずれてはいないとしても、そこに現代の文学ジャーナリズムが閉じ込めてしまうのは、ちょっとおかしいと思うんですね。石牟礼さんの宇宙というか、時空を超えていく想像力は、さまざまな体験、水俣病の闘争などで引き裂かれた心を、土地に問い人々に問いながら、すごい精神の距離を渡って把握された許しであり、癒しであると思うんです。
−−このメルマガの書き手や読み手もまた無縁ではないだろう、都市の生活者のしばられた思考の枠組を踏みはずしてくる表現ですね。
−−表現は本来的にそういう面を持っているはずなんですが、日本のジャーナリズムだけ眺めている分には、作品でも評論でももはや、現在の都市生活を生きる気分を支える消費材、もっと悪く言えば記号ごっこですから。
−−合州国は怖いなあ、と軽く言えるのが流行る一方で、その背後で姑息に立ち回る日本(外務省によれば、いまだ「王制」国家とのこと)のことは、景気といった視点でしか見られないという。

−−ま、あんまり皮肉な話になっても仕方ないんで、「緑亜紀の蝶」から2行引いて終わりにしましょう。この詩は石牟礼さんの分身とも思える、髪の毛のあいだに白い蛇を養っている、ふさぎ神、夢見神のお婆さんが、夢うつつに地球や魚たちと語り合う、物語のような作品ですが、その彼らに聞こえて来る声、

「神と人のための詩(うた)を
 陽の中の闇にきけ」

この声に立ち止まって耳をすますこと。そこから何が聞こえてくるか、何も聞こえてこないのかで、21世紀という時代が決まってくるような気がします。何か、えらそうな物言いですけど。


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