2001.11
2001年11月
◯81/11の手帳から 25歳、よく酒を飲んでいる。心は真っ暗。東南アジアの文学とか、鶴見良行さんの評論などを読んでいる。
◯91/11の手帳から トリュフォー監督関連の本をよく読んでいる。アニエス・ヴァルダ監督の映画「冬の旅」に泣き、ゴダール監督の映画「ヌーヴェルヴァーグ」に失望する。
「『爆破』づく秋」(2001/11/11)
9月の初めに「書評のメルマガ」に感想文を書いたエドワード・アビーさんの小説『爆破−−モンキーレンチギャング』に関連して、ちょっとした「事件」があったので、同メルマガに短いコラムを書きました。時間がなく舌足らずな文章になってしまったので、加筆修正の上、以下に掲載します−−
金曜日 (11/9) の夕方、今週は辞典CD-ROMのためのデータのエラー・チェックと辞典の校正でやれやれ疲れたわい、気分転換にアマゾンでいろいろ検索して、去年の秋に亡くなったヤングアダルトの鬼才ロバート・コーミアさんの遺作小説と、ノーベル賞を受賞したV. S. ナイポールさん(カリブのトリニダード出身)の小説『ゲリラ』を注文して、さあ茶でも飲むかというときに、「書評のメルマガ」の河上さんが電話とファクスとメールで、ある「事件」のことを教えてくれた。
10月10日、フィラデルフィア国際空港でニール・ゴドフリーという22歳の青年がユナイテッド・エアラインに搭乗拒否された。理由は3つ。青年がダイナマイトのイラストを表紙にあしらった小説を持っていたこと。「あの」事件のあった9月11日に買った切符を持っていたこと(事件より数時間前にネットで買ったとのことで、ただの偶然)。そして、免許証が失効していたこと(この件は係官の判断ミス)。青年はやむなく一度帰宅し、これから帰るはずだった実家に電話し、新しい切符を予約してもらい、同じ日の午後、再度空港へ向かった、ただし今度は持っていく本を『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』に代えて。彼の顔を覚えていた係官たちが4人がかりでハリー・ポッターの内容をおよそ20分に渡ってチェック、身体検査もされてパスした上で、再度搭乗拒否。のちに父親が搭乗拒否の理由をユナイテッド・エアラインに問い合わせたところ「爆弾に関するジョークを言ったため」という事実とは違うコメントが帰ってきた(それに、連邦法では爆弾がらみのジョークを乗客が言ったのであれば、搭乗拒否ではなく即刻逮捕のはずだ)。(以上「フィラデルフィア・シティ・ペーパー」http://www.citypaper.net/より抜粋)
要するに彼は持っている本によって危険人物と見なされたわけだ。そしてそのダイナマイトのイラストを表紙にあしらった本というのが、このメルマガで9月の初めに私が紹介したエドワード・アビーさんの小説『爆破−−モンキーレンチギャング』(築地書館)の続編『ヘイデュークは生きている』("Hayduke Lives!", Little Brown & Co)だと言うからびっくり(世の中せまい)。『爆破』は環境を破壊する工事現場やそのための機械や交通機関を破壊する、いわゆる「環境テロ」の物語だったが、この私は未読の続編は、そのヘイデュークを中心にしたメンバーが今度もひと暴れという内容のようだ。この本に関しては空港の係官や警官らが10人ちょっとで45分くらい内容をチェックし、「無害」と判断され、航空会社が最終段階で「ノー」と言わなければ乗れたはずなのだが、ダイナマイトのイラストが効いたのだろう(内容的にもっと危険なものなど、たとえばミステリーならいくらでもあるはずだ)。身体検査をしても何も出てこない、実家に帰って両親とディズニーランドに行く予定だったという青年に対する過剰な反応は、ちょっと笑えると同時に明日はわが身という怖さがある(私なんて持ってる本とか図書館で何を借りているかなんてチェックされたら……)。
今度、ナイポールさんの『ゲリラ』が手元に来たら、それを持って久しぶりに飛行機に乗ってみるか。
「雑談・何をどこで買って読んだか−−11月編」(2001/11/24)
今月は何の本をどこで入手して読んだか、あまり続けると悪い癖になりそうで、来年はどうするか、わかりませんが、とりあえず今月もやってみます。今月は忙しさの反動か、割と「濃い」読書生活(?)だったので、個別にコメントしてみます。
V. S. Naipaul "The Mystic Masseur" (Penguin Books) 神保町・北沢書店
今年のノーベル文学賞の受賞作家ですが、南アフリカ共和国のナディン・ゴーディマさんと、このトリニダードのナイポールさんの作品はいつか読まねばと気にかかっていました。この作品は長編デビュー作(1957年)ですが、カリブの長く英領だった島国の1人のインテリが辿る運命を、すでに50年代に喜劇風にとらえているのはすごいと思いました。主人公が婚家の金を使いまくって自費出版するときにも、イギリスのペーパーバック風に紙はこうじゃなくちゃとか、書体はやっぱりタイムスだとかこだわったり、本を出したということで家族や友人がすごく盛り上がったり。心理学の読みかじりの知恵を生かして、神秘的な力を持つマッサージ治療師として成功した主人公はやがて政治家になるのですが、ちょっとした行き違いから本人は善意を持っていたのに島の貧しい人々の不興を買ってしまい、苦い晩年を送るという展開も、かなり予見的だったのではと思います。
『ピストルオペラ』同映画パンフレット・テアトル新宿
鈴木清順さんの久々の新作映画。江角マキコさん演じるところの殺し屋が走り、銃を撃ちまくるという設定は、60年代であれば時の反抗的な気分と呼応したのかもしれませんが、そこは21世紀、ひたすら軽快にスポーティに殺しまくります。そこが逆に好きに撮るしかねえやという監督のニヒルな気分を伝えてきます。加藤治子さんに三島由紀夫の死をめぐる夢を延々と語らせているシーンがありました。それすらも、現代っ子たちには、意味不明の心地良さだったかも。
ロバート・コーミア『フェイド』(扶桑社ミステリー文庫)神保町ブックセンター(古本)
去年亡くなったヤングアダルトの鬼才の1冊。姿を消すことができるという不思議な血筋の男たちの話。重い内容ですが、そこはヤングアダルトということで、きつい読書の途中の息継ぎのような気分で読みました。
Don DeLillo "The Body Artist" (PICADOR) 紀伊國屋書店新宿本店
デリーロさんの作品は、たとえば合州国の同時代をさまざまなテクニックを駆使して壮大な文学空間に凝縮させるという、私はどちらかと言うと苦手な作風のようですが、店頭でこの小品を見つけ初めて読みました。夫が自殺したあと、妻が、いつの間にか家に住み着いていた少年を見つける。少年は彼女を前に、テープレコーダーなどを通して覚えた夫婦の会話を再現する……。アートっぽいんですが、痛いところのあるラブ・ストーリーで好感を持ちました。
ポール・セロー『ワールズ・エンド(世界の果て)』(文藝春秋)妻の蔵書
セローさんは先月読んだ『パタゴニア』の作者ブルース・チャトウィンさんと親交のある人ということで読みました。村上春樹さんのセレクト・翻訳による短編集ですが、世界を実際に旅したり、アジアやアフリカで暮らしたりといった体験をベースにした、世界における自己の居心地の悪さ、生きていることと感情のねじれを扱っています。合州国作家にしては不思議なテイストの作品なんですが、もう1、2冊読まないと、何とも言えないかも。
金学烈・高演義=編『朝鮮幻想小説傑作集』(白水社)以前より所有
7、8年前、李良枝さんの作品を読んだのをきっかけに、朝鮮の歴史や言葉について勉強したのですが、大仕事をまかされて、ハングルの勉強は挫折したなんてことがありました。これはその頃に買ったままになっていた本。20世紀の「幻想」小説アンソロジーという括りではありますが、日本による支配や、戦後の南北分断が強いた精神的閉塞状況に対する批判を、「幻想」というスタイルを借りて表現したものがほとんどです。日本の警察に捕まって獄死した作家もいますし、日本の学校教育でも取り上げてほしい内容です。
『広告批評1991/11号--社会主義ってナンだったの?』(マドラ出版)以前より所有
ソ連共産党一党支配の崩壊(という言い方でいいのかな)を受けた特集。鶴見俊輔さん、多田道太郎さん、森毅さんの座談会、橋本治さん、浅田彰さんへのインタビューという内容。この辺に一回帰って考えてみると、最近の民族主義とか声高に騒がれる経済のグローバル化とか構造改革といった問題がすっきり見えてくる(かも)。
レイナルド・アレナス『夜になるまえに』(国書刊行会)会社に出入りの取次(本の問屋)さんに注文
映画化作品を見て、ちょっと物足りず、原作も読みました。この本については、来月、書評のメルマガに感想を発表します。このホームページでも、そのうち載せます。
Robert Cormier "The Rag and Bone hop" (Delacorte Press) Amazon.com
先にもふれた、コーミアさんの最近出た遺作小説。手がかりのない少女殺人事件を解決するために、警察は少女と仲のよかった少年を犯人に仕立てるべく、腕ききの尋問官を招く。犯罪心理に通じた尋問官は少年の無実を確信するのだが、自分の名誉や出世に気をとられて残酷なまでの尋問を続行する……。コーミアさんは日本のサスペンスのような荒唐無稽な設定を使わず、リアルで苦いテイストの作品を書く作家ですが、この最後の作品はきつい。あまりにきつくて早く読み終わりたくて、一気に読んでしまいました。
David Guterson "The Country Ahead of Us, the Country Behind" (Vintage) 紀伊國屋書店新宿本店
グターソンさんは『殺人容疑』(原題「ヒマラヤ杉に降る雪」)の作者ですが、つねに誠実な印象を与える作家です。動植物名が頻出するなど、描写が細かくて、英語で読むのはちょっと難しいところもありました。長編『死よ光よ』を読んだときにも感じたことですが、グターソンさんはヘミングウェイさんを意識しているんじゃないかな。ただ、ヘミングウェイさんなら暗い想念に引きずられていくところで、グターソンさんはぐっと踏みとどまる。そして生への信頼を白々しくなく書き込もうとしていると思えました。
それではまた来月。
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