2001.10



2001年10月
◯81/10の手帳から 鈴木清順監督の「陽炎座」を見た。その他、教育問題関係のシンポジウムなどに出かけたりしている。女性問題もいろいろの青春?
◯91/10の手帳から 突然、トリュフォーのことが気になり、いろいろと本を買いあさって読んだりしている。まだ妻子の存在に慣れていない。

「アフガン空爆の始まった月に」(2001/10/14)

−−とうとう合州国のアフガン空爆が始まりましたね。と言ってもあなたは相変わらず読書と仕事の日々でしょうけど。
−−そうですね。首相がどうの、外相がどうの、大統領がどうの、と雑談はできるけれど、その先は何かぼんやり考えることしかできていません。そうそう、あなたがいいと言っていた「イル・ポスティーノ」(マイケル・ラドフォード監督)をビデオでやっと見ました。いい映画でした。
−−今ごろ見たんですか。
−−ええ、今ごろになって、見る理由みたいなものが、自分のなかで連鎖反応的にできてきて。
−−と言うと?
−−その前に、イザベル・アジェンデさんの小説『エバ・ルーナ』(スペイン語からの英訳、バンタム・ブックス。翻訳は国書刊行会から)を読んだんですが、これがすごくいい小説で、エバという少女が幼くして孤児になり、女中として家々を転々としたあと、自分の作家としての才能に目覚めると同時に、ゲリラの脱獄の手助けをしたりするというのが主筋なんですが、女中として働く家の主人がミイラ作りに一生を捧げた男だったり等身大の人形やオブジェ作りに没頭する女だったり、女中暮らしから逃げ出した彼女の面倒を見る女がSMの器具を作って世界的にヒットさせるとか、後に大女優になる、男の身体と女の心を持ったトランスジェンダーの人物と仲良くなるとか、細部が奇抜でしかもすごくいきいきしていて、ガルシア=マルケスさんの小説よりいいかもと思ったくらい。
−−何か話が長くなりそうですね。
−−で、そのアジェンデさんは、チリのアジェンデ大統領の姪なんです。アジェンデ大統領は若い頃から独裁反対闘争に参加したりしていた活動家なんですが、左翼政党の連立で大統領に選出されたあと、合州国の援助を受けた軍部のクーデターで殺されるんです。ジャーナリストだったイザベルさんは結局、合州国に亡命してスペイン語作家になるというのが何とも皮肉なんだけれども。
−−合州国ってどこでもそういうことやってるんですね。

−−で、「イル・ポスティーノ」に戻りますが、これはチリで共産党が非合法とされた50年代に、国を追われた詩人のパブロ・ネルーダさんがイタリアの小さな島で暮らしているときに、読み書きのできる人が少ないために、彼だけのための郵便配達人になった青年が主人公で、彼がネルーダさんと接触しながら、詩に目覚め政治に目覚めていく、という話でしたね。
−−設定に関しては映画化にあたってかなり脚色があるようです。それはともかく、ネルーダさんは詩人であると同時にチリの外交官や上院議員も務めた人だったのに、一時亡命を余儀なくされたのは事実。後に祖国に戻り、アジェンデ政権下でも駐仏大使になったり、ノーベル文学賞を受賞したりと活躍していたのですが、アジェンデ政権崩壊後ほどなくして亡くなっています。
−−彼の家は、ピノチェトの軍事政権の時代には警察によって封鎖されていたのに、警備隊員の目をくぐって、彼を敬愛する人々が塀にメッセージを書きつけていたと、ガルシア=マルケスさんによってまとめられたルポ『戒厳令下チリ潜入記--ある映画監督の冒険』(岩波新書)に書かれています。たとえば、「愛は決して死なず。将軍よ、アジェンデとネルーダは生きている。一分の暗闇は我々を盲目にはしない」とか。
−−その「将軍」は、そのままその背後にいる「合州国」と読み替えてもよさそうですね。
−−そう。そして今でも、別の国でも、この言葉がそのまま通用すると思う。ラテンアメリカやカリブ海出身の作家たちの作品を読んでいると、合州国、そしてイギリスやフランスといった列強国が歴史的に落としている影をいつも感じます。もちろん、そうした作家たちが祖国にいられなくなったとき、亡命者として彼らを受け入れる合州国という面もあることは忘れていないわけですが。
−−その合州国の2面性に対する視点をなくさないで、つまりマルかバツかで切り捨てることなく、同時に日本のことも考えなくちゃというあたりですか。
−−そうですね。考えがまとまってくるのにはいろいろまだ時間がかかりそうですが、今回はこれくらいにしておきましょう。

「雑談・何をどこで買って読んだか−−10月編」(2001/10/26)

 何か言葉がうまく出てこないので、9月に書いた雑談の続きを載せておきます。今月は何の本をどこで入手して読んだかなんてとこです。

小池昌代『夜明け前十分』(思潮社)渋谷・ブックファースト
山中恒(挿絵・松本大洋)『八月の金貨』(あかね書房)江東区立図書館
Isabel Allende "Eva Luna" (Bantam Books) Amazon.com
Sandra Cisneros "The House on Mango Street" (Vintage) Amazon.com
加藤周一・鶴見俊輔『二〇世紀から』(潮出版社)江東区立図書館
Bruce Chatwin "In Patagonia" (Penguin Books) Amazon.com
アントニオ・スカルメタ『イル・ポスティーノ』(徳間文庫)神保町・三省堂書店本店
ジョーン・ディディオン『マイアミ--亡命ラテン・エリートのアメリカ』(中央公論社)以前より所有
ロバート・コーミア『真夜中の電話』(扶桑社ミステリー文庫)神保町・かんたんむ(古本)
ロバート・コーミア『ぼくの心の闇の声』(徳間書店)江東区立図書館
ジョーン・ディディオン『ラテンアメリカの小さな国』(晶文社)江東区立図書館

−−相変わらず仕事と読書の日々ですなあ。
−−うん、とくに今月はかなりレベルの低い原稿を400字にして1200枚ばかりリライトしなくてはいけないという仕事もあったりして、それは来週明けくらいには何とか終わるんだけど、変な言葉を読んでいるときは、筋の通った言葉を読んで自分を支えたいという面もあるみたい。
−−それにしても、あんまり本を買わなくなりましたね。
−−自分で、先月からこんなメモをまとめだして、気がついたけど、神保町に軽く歩ける職場にいるのに、今年は三省堂書店の本店で1冊しか買ってない。
−−あの本屋さんはどうなるんですかね。大量に売れる本を大量に在庫してワゴンセールふうに回していくだけなのか。文庫だと各社別に並んでいるから目的意識のはっきりしているときは在庫も多めで探せるけど、やや地味でジャンルもはっきりしない人文書とかを探すとしたらちょっと徒労と言うか。
−−文学か旅行記か、地理か歴史かとか、ね。
−−ブルース・チャトウィンさんの『パタゴニア』(訳はめるくまーる社より)ですね。
−−うん、南米のアルゼンチンの南端の地域の旅行記で、ヨーロッパのアメリカへの侵略や移民が現地に刻みつけてきたねじれ、また南米への航海記などがシェイクスピア、コールリッジ、スウィフト、ポーといった表現者たちにエキゾチックな異人の国というイメージを生ませてきた過程などを旅行記のかたちで浮き彫りにしている本なんだけれど、最後のほうにすごく醒めた浮いている感じの1章があって、誤読かなあと不安になって、訳書を探しに行ったけどやっぱり見つからなかった(笑)。
−−中南米ものを今月もよく読んでますよね。
−−合州国の手引きで殺されたチリのアジェンデ大統領の姪のイザベルさんの傑作小説、アジェンデと言えばネルーダということで思い出して映画化作品もビデオで見たスカルメタさんの『イル・ポスティーノ』(映画ではイタリアに亡命中のネルーダさんという設定だったが、原作はアジェンデの大統領就任前から暗殺までの時代のチリを舞台にしている)、そして最近の状況を見て合州国って何なんだという気持ちが強くて、10年前に買ったままになっていたジョーン・ディディオンさんの『マイアミ--亡命ラテン・エリートのアメリカ』を読みました。
−−キューバから移民・亡命してきた人々が半数を占めるマイアミを取材したルポですね。
−−その、キューバ系の人々でも共産主義憎しという富豪もいれば共産主義はいいがカストロが憎いという人もいる。そういう彼らを利用し翻弄する、ほとんど分裂的と言ってもいい合州国政府のありようが書き抜かれています。ケネディ兄弟が中心になった「カストロ暗殺計画」とか、キューバ系の人々の部隊を支援し武器を渡して訓練もさせて彼らを送り出した途端に見捨てるとか、移民ロビーと調子を合わせつつ冷戦の戦略に追われた狂奔の歴史です。勢いでエルサルバドルを取材した『ラテンアメリカの小さな国』も読んだんですが、政府とゲリラの対立なのか、合州国の金(援助)を手に入れるための、本当は近しい人々の対立なのか、よく分からないくらいという中米の国の混沌と、自分たちとの付き合い方次第で相手の善悪を語る合州国の右往左往が書かれています。
−−これからどうなるんでしょうか。
−−さあ、鶴見俊輔さんの最近の新聞での論説記事にもあったけれど、世界で一番経済力も軍事力もある国が一番貧しい国を一夜漬けの正義を振りかざして叩くという構造、ここから日本人としてどんな論理で身をもぎ離していくか、きちんと意味のある言葉を模索しないと。定型や引用じゃなく届く言葉を。


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