2001.9
2001年9月
◯81/9の手帳から 大仕事を終えて虚脱。ごろごろしたり、渋谷や早稲田の古本屋さんをうろついたり、デートしたり。
◯91/9の手帳から まだ0歳の薫を連れて、夫婦で同人詩誌「飾粽」の合宿へ。人見知りの薫が泣きやまず大変でした。
「書評再録−−エドワード・アビー『爆破−−モンキーレンチギャング』」(2001/9/21)
書評のメルマガに発表したエドワード・アビーさんの小説『爆破−−モンキーレンチギャング』(片岡夏実訳・築地書館)の感想を再録します。この書評が発表される直前の9月11日に合州国の諸施設への同時攻撃がありましたが、その辺については英文日記の9月17日付けの記述と、ひつじ書房主宰の「書評ホームページ」に書いたエリック・シュローサーさんの『ファストフードが世界を食いつくす』(楡井浩一訳・草思社)の感想に若干関連する記述があるので併せて読んでいただければ幸いです。以下本文です。
「何かダムとかを爆破するとかって書評に出てましたけど、下流域に水があふれて住民に被害を及ぼされたくなかったら金払えとか原爆よこせとかという、あの手合いですか?」「いや、これは原発が生む電力を消費するためにダムが作られているといった現実をごまかしたい、電力会社や建築会社が喜びそうな、ありきたりのヒーロー小説とはちょっと違うみたい」「そんなのありましたっけ? あ、あの織田なんとかが出て映画になった」「ま、その話はやめておきましょう。お互いに原作も読んでないし映画も見てないし、好きな人がいるかもしれないから」「で、結局、どんな話なわけ?」
「合州国の南西部を舞台に、自然が破壊されることに不満を持った4人が出会って、大企業の乱開発現場、それを支えるための橋や鉄道といった交通機関を片っ端から破壊していくというのがメイン・ストーリー」「過激派ですか」「そう、はやらないで。その4人を一応紹介しておくと、ヴェトナム帰りのイカれた暴れん坊のヘイデューク、観光客にコロラド川の川下りをさせたりして食っている、真面目なアウトドア派のセルダムの若い2人に、スポンサーでありブレーンでもある50に手が届く外科医師のドク、その若い美人助手のボニー。最初はドクがハイウェイ沿いの看板広告を燃やすといった可愛いレベルだったんだけれど、この4人が出会ったことで、一挙にエスカレート、工事現場に忍び込んでブルドーザーなどの重機のエンジンを駄目にするとか、崖から落とすとか」「ひょっとしてすごく真面目な話?」「いや、こう言葉にすると硬い感じだけど、『ギャング』って言うくらいだから、筋立てとしては銀行強盗の環境問題バージョンと考えたほうがいいかも。いかにも俗物って感じの追っ手たちとの絶体絶命のカー・チェイスもあるし、ボニーがドクからヘイデュークに乗りかえるといった恋物語もあるし」「『明日に向って撃て』ってなもんですか」「そうそう、でもそのタイトルでこのメルマガのどれだけの読者がぴんとくるかしら」
「私たちもすでに40半ばですから話題が多少古いのも仕方ないでしょう。この原作も75年ですからニュー・シネマの時代ですかね」「ニュー・シネマにはちょっと遅れてるけど、あのアンチ・ヒーローの気風は作品のなかに生きているね」「『イージー・ライダー』とか『バニシング・ポイント』とか、理屈抜きでとにかくいっちまえという感じ」「話題がずれるけど、この作品が今まで訳されなかったのは、ひとつは70年代半ばの日本の状況が関係しているんじゃないかな」「と言うと?」「銀行強盗の話なら単なるフィクションで喜んでいられるけど、この場合、環境破壊に爆薬を持って対抗するというすごくリアルな設定でしょ」「現在の環境保護団体の人々にも、実際に爆薬を使うかどうかは別として、バイブルのように読みつがれているらしいですね」「爆薬というものについて合州国ではヴェトナム戦争直後ということもあって、人殺しに使うくらいなら自然のために使っちまえというのは、想像力の許容範囲だったのではないかと」「日本では?」「72年に連合赤軍のあさま山荘事件と内部粛正リンチ殺人の発覚(その頃にはその他のセクト同士のリンチも常態化していた)、74年の東アジア反日武装戦線による三菱重工爆破事件(翌年逮捕)といった事件が続いて、世間の学生運動へのシンパシーが冷えていき、実力行使に出るのはひとからげに『過激派』という括りかたが定着していった時代だからね、環境破壊に対抗してという設定のフィクションだとしても、あまりに現実に地続きで受け入れられなかったと思う」「企画会議にかけたとしても『これはちょっと』と言われてしまうとか」「まあ、この辺りのことは、また年寄りが古い話してるなと通りすぎるんじゃなくて、松下竜一さんの渾身のドキュメント『狼煙(のろし)を見よ--東アジア反日武装戦線"狼"部隊』(現在は河出書房新社の『松下竜一 その仕事〈22〉狼煙を見よ』ほか)あたり、当事者の人間性がくっきり描かれているので是非読んでほしいですね」
「現実と地続きのフィクションって合州国では多いんですかね」「とにかく人種や移民の問題がまず大きいし」「日本でも文学の力が衰えたと言っても、在日の人々や差別されている人々の表現はなお盛んですね」「比較的最近ではルース・L・オゼキさんの『イヤー・オブ・ミート』(佐竹史子訳・アーティストハウス)がよかったなあ」「日本の商社がスポンサーになって合州国の肉を日本で売るためのPR番組を作っている女性ディレクターが、合州国の食肉牛への成長ホルモンや抗生物質の過剰投与とそれが人間に障害をもたらしている現実をさぐりあてていくという」「うん、この小説もこう書いてしまうといかにも硬い話のように聞こえるけど、登場人物たちの恋や人生観がきっちり書き込まれていてすごく面白かった」「いじけた話にならないのが合州国小説のいいところですかね」「日本だとすぐ文部省のお墨付きで映画化とかって乗りになりがちだからね」
「『爆破』かあ。爆破したことあります?」「いや、でも本を読むにしても書くにしても、『爆破するぞ』という、どこかで現実とつながっている心意気を持ちつづけていたいもんだとずっと思っています」
「雑談・何をどこで買って読んだか」(2001/9/26)
「本のメルマガ」に買った本の全点報告を書いている南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)さんの真似をして、今年読んだ本について、手帳のメモと記憶を頼りに雑談をまとめてみました。個々の本について書いた文章は、このジャーナル欄の人名索引やひつじ書房が主宰する「書評ホームページ」に書いた本の感想文のリストなどを使って参照していただければ幸いです。
2月
Salman Rushdie "The Ground Beneath Her Feet" (PICADOR USA) 紀伊國屋書店新宿本店
Seamus Heaney "Beowulf" (Faber and Faber) 神保町・北沢書店
清水哲男『さらば、東京巨人軍。--鞠とどまるは落つるとき』(「ど」は略字)(新潮社)清水さんにいただいた
*正月に買ったラシュディさんの小説を読むのにひと月半かかった。昔ながらの小さな活字が詰まった600ページ弱のペーパーバック。でも、面白ければ読めるんだ。このパワーは今の日本「人」文学にはない。
3月
童話屋版『日本国憲法』『あたらしい憲法のはなし』森下・通っていた外科のそばのコンビニ
網野善彦『蒙古襲来--転換する社会』(小学館文庫)会社に出入りの取次(本の問屋)さんに注文
David Almond "Skellig" (Yearling Books) スカイソフト(ネット書店)、旭屋書店水道橋店で受け取り(以下スカイソフトは同)
マキシーン・ホン・キングストン『チャイナタウンの女武者』(晶文社)以前より所有
Michelle Cliff "No Telephone to Heaven" (PLUME) 神保町・東京堂書店
Paul Zindel "The Pigman" (Bantam Books) スカイソフト
*NHKの大河ドラマに対抗するように読んだ『蒙古襲来』、日本が助かったのは「風」のためだけではなく、高麗軍など元に支配された国の兵たちの抵抗のためもあったという指摘は貴重。時宗は若僧で騒ぐほどの人物ではなかった模様。
4月
Junot Diaz(iにアクセントあり) "Drown" (Riverhead Books) Amazon.com
『ハイ・フィデリティ』同映画パンフレット・恵比寿ガーデンシネマ
Edwidge Danticat "Breath, Eyes, Memory" (Vintage) Amazon.com
町田健『言語が生まれるとき・死ぬとき』(大修館書店)会社の資料
岩明均『雪の峠・剣の舞』(講談社)神保町・高岡書店
ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて--第二次大戦後の日本人 上』(岩波書店)会社に出入りの取次(本の問屋)さんに注文
ラファエル・コンフィアン『朝まだきの谷間』(紀伊國屋書店)江東区立図書館
パトリック・シャモワゾー『幼い頃のむかし』(紀伊國屋書店)江東区立図書館
Denis Johnson "Jesus's Son" (HarperPerennial) Amazon.com
*岩明さんのもの以外にメモしていないけれど、マンガは相変わらず新旧とりまぜて読んでいる。これを書いている最近では、赤塚不二夫さんのマンガを子どもたちと「ニャロメもいいとこあるんだよね」と言ったりしながら読んでいるし、中沢啓治さんの『はだしのゲン』も子どもと初めて読み通した。
5月
Gail Tsukiyama "The Language of Threads" (St. Martin's Press) Amazon.com
『リトル・ダンサー』同映画パンフレット・シネスイッチ銀座
Jamaica Kincaid "Talk Stories" (Farrar, Straus & Giroux) Amazon.com
小森陽一『ポストコロニアル』(岩波書店)神保町・岩波ブックセンター
Edwidge Danticat "Krik? Krak!" (Vintage) Amazon.com
Lee Hall "Billy Elliot" (Faber and Faber, 「リトル・ダンサー」シナリオ) 紀伊國屋書店新宿本店
David Almond "Kit's Wilderness" (Delacorte Press) スカイソフト
Robert Cormier "I am the Cheese" (Laurel-leaf) スカイソフト
Robert Cormier "The Bumblebee Flies Anyway" (Laurel-leaf) スカイソフト
*ネットで買いあさった洋書三昧。日本人と中国人の両親を持つ合州国作家ツキヤマさんは、ネットで予備知識なく知った逸材の物語作家。映画「リトル・ダンサー」は傑作でパンフレット、シナリオ本のほか、サントラも買ってしまった。昨年亡くなったヤングアダルトの鬼才コーミアさんの未読作品を追いかけるようにして読んだ。
6月
長谷川宏『丸山眞男をどう読むか』(講談社現代新書)神保町・日本特価書籍(新刊割引)
小野二郎『小野二郎の書物論』(《リキエスタ》の会)神保町・岩波ブックセンター
津島佑子『笑いオオカミ』(新潮社)江東区立図書館
網野善彦『職人歌合』(《リキエスタ》の会)神保町・岩波ブックセンター
Gail Tsukiyama "The Samurai's Garden" (St. Martin's Press) Amazon.com
Edwidge Danticat "The Farming of Bones" (Penguin Books) Amazon.com
巽孝之『「2001年宇宙の旅」講義』(平凡社新書)神保町・日本特価書籍(新刊割引)
Julia Alvarez "In the Time of the Butterflies" (PLUME) 神保町・北沢書店
*津島さんの本はごく初期のものを除けばほぼすべて読んでいるが、『笑いオオカミ』は愚作、書かれる必然性のなかった失敗大作、「知識人」になってしまったのか。ダンティカさんやアルヴァレズさんの作品と比較にならないくらい貧しく弱い。巽さんの評論は今様の頭のいい大学の先生の器用な著述だが、「頭がいいんだなあ」という以上の感慨は浮かばなかった。
7月
レベッカ・ブラウン『体の贈り物』(マガジンハウス)江東区立図書館
Slavenka Drakuric(最後のcにアクセントあり)"S." (Penguin Books) 神保町・東京堂書店
ターハル・ベン=ジェルーン『あやまちの夜』(紀伊國屋書店)水道橋・松本書店(ゾッキ)
李恢成『またふたたびの道 砧をうつ女』(講談社文芸文庫)以前より所有
岡崎武志『古本でお散歩』(ちくま文庫)岡崎さんにいただいた
*カリブ文学から少し領域を広げようと模索。世界に目を広げると文学はまだまだ元気だ。エイズの末期介護を扱った短編集『体の贈り物』は拾い物だった。
8月
ナディン・ゴーディマ『戦士の抱擁』(晶文社)神保町・日本特価書籍(ゾッキ)
エドワード・アビー『爆破--モンキーレンチギャング』(築地書館)神保町・湘南堂(ゾッキ)
山中恒『あばれはっちゃく』(理論社)江東区立図書館
Louise Erdrich "Love Medicine" (HarperPerennial) Amazon.com
チャールズ・ブコウスキー『勝手に生きろ!』(学研M文庫)神保町・荒井南海堂
坪内祐三『靖国』(新潮文庫)神保町・都営新宿線ホームのキオスク
*こう見てくると今年は、地上の書店で新刊単行本を定価で買うということが極端に少なくなっている。これから先はどうなることやらと思う。編集者である自分のことも含めて。
9月
ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて--第二次大戦後の日本人 下』(岩波書店)会社に出入りの取次(本の問屋)さんに注文
Gail Tsukiyama "Night of Many Dreams" (St. Martin's Press) Amazon.com
エリック・シュローサー『ファストフードが世界を食いつくす』(草思社)江東区立図書館
『1930年代 日本の印刷デザイン』同展覧会カタログ・京橋・国立近代美術館フィルムセンター
Lee Stringer "Grand Central Winter" (Washington Square Press) Amazon.com
鈴木志郎康『胡桃ポインタ』(書肆山田)鈴木さんにいただいた
『夜になるまえに』同映画パンフレット・渋谷・シネマライズ
Rebecca Brown "Annie Oakley's Girl" (City Lights Books) Amazon.com
*本を買い、本を借り、本を読み、本を作る現場のシビアな現状に耐えている、と言うとかっこ良すぎ?
[ジャーナル目次]
[このまま読み続ける]
[トップ・ページ]
[リンク]
[ライブラリー]